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2021年2月19日 (金)

メジロの視力表?

所長  北村 豊

 庭の栗の枝につき刺したリンゴや、吊るしたリンゴ、そしてヒエやアワの餌には、毎日沢山の鳥がやって来てくれる。 三密を避けるようにいわれる昨今だが、鳥の世界は自由で、一密(リンゴ)?を求めてやってきて、ソーシャルディスタンスゼロになることも多い。

 リンゴだけは、食料の少ない晩秋から春先までの唯一の季節限定の野鳥用レストランのメニューだが、それをついばむ愛らしい中にも凛とした野鳥の姿は、診療所に来院される患者さんや、私達スタッフの目を楽しませ、さらにそれを観察する者の心を豊かにしてくれる、と感じているのは私だけだろうか……。

 日本では冬鳥で、今年は1月中旬頃より毎日来て同じ枝に刺したリンゴの指定席が大のお気に入りで常連客だった“ツグミ”も、ヒヨドリの出現と共にパッタリと来なくなったのはとても淋しい。 もちろんのこと、幼稚園児のように名札がぶら下がっていなかったので定かではないが、同一個体が毎日一羽だけで飛来していた可能性が高いと推測している。

 例年だと早くから当院の庭にも来るヒヨドリが、今年はリンゴをついばみになかなか来なくて、他の鳥も追い払われずに安心して食事している風景を内心では喜んでいたのだが2月初旬からついに来るようになってしまった。

 ほかの小鳥たちは、ヒヨドリには一目も二目も置く鳥で、その餌場を独占しようと他の野鳥たちを追い払おうとする性格を除けば、姿はなかなかスマートで美しいとは私も認めているのだが‥‥‥。

 先週の土曜日に、診療所の裏のお茶の木の垣根の近くで元気のないメジロを保護した。 外敵に襲われた形跡もなく、放鳥すると近所に多いネコに食べられることも懸念して、野鳥を飼ってはいけないことを知りつつ、週末でもあったので仕方なく保護することとし、わたくしの家で二泊三日、三食付きで療養して回復した。 手の中に抱いてこのメジロをごく間近にわくわくしながら観察するのは初めての経験だったが、容姿端麗で才色兼備な美しい鳥だとつくづく思った。

 この鳥の名前の由来ともされる眼球の周囲の“白いアイリング”は、眼を中心に外に伸びる花弁のような、人によっては刺繍のような繊細な純白の羽毛で縁どりされているのに気付く。

 しかし、このアイリングがくちばしに近い前方部で一部切れていることをご存知だろうか? そのアイリングの形状は、皆さんにも眼科などで馴染みの、“大小の円形の一部が途切れた視力表”の「ランドルト環」をイメージさせる形状をしている。

 日本で観察できる野鳥の中でもかなり小形の種類に入るメジロのアイリングの前方部が途切れていることに気づくことは、裸眼もしくは矯正視力をもった“日本人”でも野鳥観察のための双眼鏡や望遠鏡使わなければほとんど不可能と思われる。 

しかし、アフリカのタンザニアに暮らすバッサ族には視力11.0という驚異の記録を持つ人もいるそうである。 その視力とは55m先から1.45mmのランドルト環の狭い切れ目の方向が確認できるという、驚異的な視力であるのだ!

 保護した時に撮影したメジロの写真から推定すると、その切れ目は実物で1mm位とさらに狭く、タンザニアの視力11.0の人ならば、30m位離れたところからでも、この小さな野鳥のメジロの“アイリング”の前方が切れていることを容易に確認できるのではないだろうか‥‥と思っている。

 しかし、タンザニアの都市部で生活する人では、視力は1.0前後となるそうで、いわゆる“都市化や文化的生活で失くしていくもの”には視力の低下のみならず、“数多くの有形無形の大切なものを失っていく環境”にほとんどの日本人が置かれていることにも気付いておくことは肝要であると考えられる。

 

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保護した当日のメジロで、弱っていてあまり飛べなかった。

 

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グラデーションのかかった美しいウグイス色の羽毛と、前方が切れたアイリングの純白の羽毛のコントラストがとても美しい。

 

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メジロのアイリングは、視力表のランドルト環によく似ている。

 

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アイリング切れこみは約1mm位で、白い羽毛は眼球側から外側に向かって配列しているのが判る。

 

診療所で放生会
2泊3日の我が家での療養で、元気になったメジロを診療所で放鳥したところ、元気よく飛び去って行った。

 

2021年2月 8日 (月)

「これきりと見えてどつさり春の霜」  一茶

所長 北村 豊

 昨日の日曜日の朝は冷え込みが強かった。そのおかげで、診療所の草は霜化粧をしてとても素敵に輝いていて、思わずかがみ込んでその美しさに見とれてしまったほどである。

 ご存知のように風も弱く穏やかに晴れると放射冷却が地表近くでおき、地上数mの高さより地表のほうが冷えるため、霜点に達してまさに自然の芸術である霜を形成する。ほとんどの化合物と元素は、温度変化により大気圧中では固体・液体・気体の三態間を順番に相転移し、水の場合は氷→水→水蒸気となるが、霜(固体)をつくる時は、水蒸気から水をとび越して固体の霜になるのだが、化学や理科を学習した読者の方は、そういえばそのような飛び越して相転移することを「昇華」と習ったなあ、と思い出していただきたく、この現象のおかげで冬の足元、いや、車のボンネットの上でさえ、自然で生の精緻な芸術作品の鑑賞ができるチャンスは2月3日の立春を過ぎたのでだんだんと少なくなってきてはいるがまだ残されている。

 地上の気温の測定方法は、世界気象機関(WMO)により規定されており、地上から1.25~2mの高さで、温度計を直接外気に当てないようにして測定することと定められている。

 しかし、日本では気象庁が測定高さを1.5mと決めていて、風通しのよい白塗りの百葉箱の中にその温度計が、小学校や中学校にもあったのを思い出す方も多いのではないだろうか?

 小学生の頃には体格も小さいため大きく感じたあの白い隙間だらけの箱がそれ位の高さだったのであるが、今はほとんど見かけなくなってしまった。

 子供の頃は自分が小さいため何でも大きく見えるもので、母の姉の墓が大阪の寺町にあり、そこは大阪場所に出場する相撲取りの宿舎にもなっていて、そこで出会った相撲取りの“あまりの巨大さ”に、象とまではいかないが、この世にこんなにも大きな同種の生物である人が存在することを強烈な驚きをもって印象づけられたことを思い出す。

 さて、脇道に逸れてしまったが、百葉箱のおもしろい話をしたいと思う。皆さんは、百葉箱の名前の由来を知っておられるだろうか?百葉とは、牛や羊の胃粘膜の襞のことを中国では古来より意味し、医学用語では皺襞(シュウヘキ)と言うが、その形状が百葉箱の周囲をブラインドの表面のような板が重なり合っているのに似ていることから名付けられたとのことである。

 胃も体内の深いところに存在するが、百葉箱にも深い意味があったのですね。

 

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オンボロの青い車のボンネットにできたとても美しい霜の結晶。

美女と野獣といったところでしょうか‥‥‥。

2021年2月 6日 (土)

リンゴをついばむ鳥たち

所長 北村 豊

 寒い信州では、野生動物にとっての冬は厳しい季節に違いない。人間ならテントや特別な装備がないと一夜で凍死してしまうような気温の中で逞しく生き抜いていること自体が、ひ弱になってしまった人間にとっては驚嘆に値する。

 診療所の庭にも多くの鳥たちが毎日やってきて、診療を待つ患者さんや、自然が大好きな私を毎日癒してくれている。特に大雪が降った日などは餌が探しにくくなるためか、訪問客?が多くなる。 

 通年やってくる鳥としては、スズメがいるが、多い時は40~50羽にもなることがあり、餌箱をつるした栗の木の枝には、食べる順番を待つ鳥でスズ(メ)なりになる。

 近年では家の構造も変化し、軒先の瓦の下の隙間もなくなって、スズメにとっては住みにくい世の中になっていて、受診された患者さんがあまりの沢山のスズメに驚かれることが度々ある。

 野鳥に甘すぎるかもしれないが、毎年初冬から春まで、リンゴを栗の木の枝に挿したり、使い古しの園芸用の支柱の針金を曲げてリンゴ受けにしたりして与えているが、患者さんにとっては待合室の目前で生の姿を見ることができ、喜んでいただいている。窓際には双眼鏡を2台置いてあるので、それで目前の野鳥をより近くに拡大して見れることにより、いろいろな発見もあるようである。

 鳥のリンゴの消費量は、一冬超すにはかなり大量になるが、幸いにも、そして親切にも多くの患者さんがご好意で鳥用のリンゴを持って来て下さるので、とても助かっている。これには職員一同心から感謝している。

 今年は、幸いにも自己主張が強く、他の鳥を追い払ってもリンゴを食べに例年なら沢山来るヒヨドリがほとんど来ないことで助かっている。1月には当院の庭にはほとんどリンゴを食しに来たことのないツグミがもう数週間連続で所定の栗の枝に“ここは私の縄張りだよ”とでも主張しているかのごとく刺したリンゴを食べに来ている。当然、幼稚園児のように名札を付けていないので個体識別は難しいが、おそらく同一個体であろうと推測している。

 ツグミは、日本では冬鳥で、夏期にシベリアなどで繁殖して寒さを避けて暖かい日本全国に飛来して冬を過ごす。昔は信州人の方々も沢山食べていたそうで、患者さんの中にも「あの鳥は食えばうめえんだ!」と教えて下さる人もおられるが、ずっと昔はよかったのだろうが、今は非狩猟鳥類になっている。

 診療室の治療用チェアーの窓から2mの至近距離にやってきて、リンゴをついばむ姿を生で見れるのも患者さんからいただくリンゴのおかげであり、患者さん共々とても楽しませていただいている。

 

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毎日定位置の栗の枝に刺したリンゴに飛来する冬鳥のツグミ。

iPhoneで撮影した画像のため粗くて申し訳ありません。

 

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リンゴをたらふくついばんで腹いっぱいになっても定位置に留まるツグミ。

この場所が大のお気に入りなんでしょうね。

 

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